こんな場所へ大都会岡山からたった一時間半程度で行けるとは知りませんでした。紅葉の季節に閑谷学校のキレイな秋を探しに行くついでに寄った場所ですが、人の気配もなく俗世から離れた行者山の名に相応しい山でした。しとしとと雨が降り、霧が濃くなっていく様子から恐怖心すら覚えましたが、寺の歴史や自然と溶け込んだ環境にすっかり魅了されてしまいました。
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目次
全盛期には「西の高野山」と称される程の仏教村
「古代より山岳宗教の聖地として崇められた」と寺の説明書きにある通り、この地はかつて大繁栄していたようです。また、古代の製鉄技術集団が活躍した歴史を持つとあることから「最上大業物十四工」に名を連ねる「備前長船」の名前が頭を過ぎりました。
歴史は古く聖武天皇の聖勅を受けた弓削道鏡法印の開山により創建されたそうです。聖武天皇ですとか、弓削道鏡ですとかもう御伽噺のような世界ですらありますが千年以上前の話です。
こちら「八塔寺」は今でこそつづら折の山道を簡単に車で越えることができますが、当時この山道を切り開き、更に集落を形成するとはとんでもない所業であったと容易に想像ができます。開山の歴史も容易ではないと思いますが、この地を訪れることすらまずできなかったでしょう。
備前国、美作国、播磨国の国境に位置するこの寺は戦乱にも巻き込まれ、繁栄や荒廃を続けて今に至ります。
以前タイ、ラオス、ミャンマーの国境をまたぐ「ゴールデントライアングル(黄金の三角地帯)」と呼ばれる町メーサイを訪れたことがありますが、こちらは麻薬や覚せい剤の密造が行われる無法地帯だったようです。八塔寺があるから国境がうまくできているのか、国境があるところに八塔寺を置いたのかは私にはわかりませんが、八塔寺を巡る争いを知るだけでもしばらく楽しく時間を過ごせそうです。
向かう途中には紅葉谷の紅葉を楽しむことができました。八塔寺へ向かうまでも楽しい時間を過ごせます。
「静けさ」というレベルを超えている
車を走らせて、到着したのはいいのですが、誰もいません。完全に人の住んでいない山の中であったら当たり前のことなのですが、ポツポツと民家らしきものはあるんです。それなのに誰もいない。なのですごく不気味でした。
「入った瞬間に村人に監視されているんじゃなかろうか。」「大変なとこに来てしまったんじゃ?」不安がよぎります。岡山に限らず、田舎とは怖い面もあります。特に山奥の隔離された村なんてその村独自のルールがあっても不思議ではありません。八つ墓村のモデルとされる津山事件も実は岡山の山村の話です。
津山事件も世間ではすでに悪習と思われていた「夜這い」や「筆下ろし」的なものが原因とも言われているし、ここもそんな怪しい村なんじゃないかと本気でドキドキしていました。実際うちの祖父は今でも自慢気に「ザコネ」文化や「夜這い」の失敗談なんかを話してきます。横でアイロンをかける祖母の哀愁たるや・・・。
車は何台か通り過ぎていくのですが、止まっていきません。え、え、一緒に寺巡りしようよ。
トイレもこんな風に藁葺きで作っていて、中に入ったらおばあさんが包丁でも研いでいるんじゃないかと思いましたが、中はとても清潔なトイレでした(笑)。ただ、天井が開放型なのでめちゃくちゃ音が反響します。男女のカップルは絶対に一緒に入らないほうがいいです。
幕末三大新宗教
余談ですがオジサンをここまで震え上がらせるのには訳があります。実は岡山には幕末三大新宗教といわれるうちの二つも総本山があるのです。天理教を除く、黒住教、金光教がそうです。別にこれらの宗教が何か怖いことをしているのかといったら全くそんなことはなく、地元で愛される由緒正しき宗教なのですが勝手に「岡山なら何があってもおかしくない。」的な妄想をついついしてしまいます。
お寺参りをする決心をする
到着早々、見えてはいましたがあまりに静か過ぎて見えないふりをして通り過ぎようとしていたお寺です。霧に隠れて物々しい雰囲気です。ちなみにこれ午後二時ぐらいの様子ですよ。真昼間ですからね。
あの門をくぐれば、鍬を持った村人に囲まれて・・・
と思いましたが、大丈夫でした。そして門についている、このおっぱいの形をした金具はなんと「乳金具(ちちかなぐ)」といいます。門だけでなく、様々な建築物で見られるます。色々な形があるので注意してみるとおもしろいです。
本当にここは平成の世の中なのか疑いたくなるような風景です。熊野神社の神聖な山道の様子とはまた違った意味で異世界にいるような気分になります。
こんな雰囲気の中で冷やかしはできないので、お賽銭をいれて参拝をすませます。村人に監視されていて後で文句言われるのも怖いし(実際そういう方はいません。八塔村の皆さんごめんなさい)。
寺を後にし、ウェブサイトでチェックしていた景色の良い山の頂上を目指すことにしました。
む~~~り~~~~~!ジジイだけど、これは無理。おしっこ漏らしそうです。登るならせめて誰か道連れがほしい!
絶対なんかいる!罠だ!神隠しにあう!写真に写ってないけどまわりお地蔵さんだらけだし(怖いので撮影しませんでした)!
ということで、いい年して「怖いので登頂断念」という恥ずかしい結末を迎えてしまいました。ここを登れば美しい瀬戸内海や中国連山を見れるそうですが、霧深く薄暗い日だったので、肝試し以外の何物にも感じられず断固拒否です。
実はこっちが八塔寺
最初にみたお寺らしいお寺は「高顕寺」というお寺で八塔寺そのものではなかったようです。八塔寺の集落を成す一つのお寺ではありますが、別に「八塔寺」という名前のお寺があるそうなのです。
ただの公民館かと思ったら、こちらが八塔寺だったんですね。戦乱に巻き込まれても何度も復活した有難いお寺ですか。ははぁ~m(_ _)m
なにこれキレイ
ふと横を見ると深い霧にも負けない眩い立派な銀杏の木が見えます。
あまりにもふとぅくしいので、オジサンはすっかり魅了されて写真をパシャパシャ。
もうさっきまでの恐怖心はありません。誰もいないので、踏みつけられることもなく、一面に銀杏の葉が広がります。
珍しいと感じたのは、この緑と黄色のコントラストです。銀杏の葉は土の上やアスファルトの上に落ちて茶色や、黒とのコラボレーション、或いは銀杏並木の下なら一面の黄色い絨毯ということはあるかもしれませんが、この組み合わせは新鮮でした。
本当は日本の原風景を楽しめる明るく楽しい場所
オジサンが訪れたのが土曜日の昼間といえど、霧の深い小雨の中なので、わざわざ紅葉シーズンに行こうと思う人がいなかっただけのことだと思います。
本当は日本の田舎の原風景の中、キャンプや登山を楽しめる楽しい場所のようです。その風景を求めて外国からの旅行者もよく訪れるのだとか。
個人的には人がいなすぎて、不安感から登山を楽しめなかったのは残念ですが。この雰囲気の中一人で歩きまわれる八塔寺もすごく良かったです。次回は晴れの日に頂上まで登りたいです。