「沖縄には難読な苗字や地名って多々あるのですが…このバス停、なんと読むのかご存知ですか?(^^;;」
沖縄バス株式会社 - タイムラインの写真 | Facebookに、そんな問題がありました。
正解は「すんがーひーじゃーまえ」だそうです。
沖縄って独特の読み方でおもしろーい!日本じゃないみたーい! なんて思ってしまうとそこで負けです(何に?)。
目次
「とみしろ」「とみぐすく」抗争を知ってますか
ちょっと茶々を入れる前に「豊見城」抗争ってご存知でしょうか。豊見城を「とみしろ」と読むか「とみぐすく」と読むかという一大抗争です。
沖縄県の豊見城市の読み方は「とみしろ」と「とみぐすく」どちらが正し... - 旅の知恵袋 - Yahoo!トラベル
要は本土の現代語風に「とみしろ」と言うか、うちなーっぽく「とみぐすく」にするかという理屈なのですが、「とみぐすく」もかなり現代日本語に影響を受けていると感じます。
どうしてもというなら「とぅみぐしぃく」、「てぃみぐぅしぃく」、「とぅよみぐしぃく」を使えばより沖縄風になると思いますが、そんなこと誰もいいません。しかもこれは、那覇や首里の方言であって、南部北部、八重山諸島の人が「いしがき」じゃなくて「いしがち」にしろ!とかいちいち付き合ってられないと豊見城住民も感じるはずです。
「すんがーひーじゃーまえ」の不自然さ
話を「すんがーひーじゃーまえ」に戻すと「寒水川樋川前」というのは独特というよりも、めちゃくちゃなのです。
「がー」は古語「かは」のことで、そのまま「川」とあてる場合もありますが、沖縄の「がー(かー)」は井戸のようなものなので「井戸」と漢字をあてたり、「井泉」とあてたり、一語で「泉」とあてたりします。それを首里では「水川」で「がー」と読ませています。正確には読ませて「いた」のです。今は「寒川」に名称は変わっています。寒水川だと「首里城castle(首里城城)」のような重複した形になるので、適切な変更だと思います。
「寒川」になると、現代語でも「さむかわ」と読め「※さんがー」となるのはそこまで抵抗はないと思います。「寒(さむ)」のmuの部分を以前は [m]; [n]; [ŋ]とはっきり区別していたはずですが、本土は [m]+母音、沖縄は[n]となり、若干違っています。沖縄でも本来は後に続く「がーgaa」とつられて[ŋ]の音に近いはずです。
(※「すんがー」ではなく「さんがー(saNgaa)」の方がより首里方言に近い)敢えてどちらとも書くなら「すぅあんぐぅわあ」)
「寒川」の「川」を「がー」と読ませているのに、「樋川」を「ひーじゃー」と読ませたり、めちゃくちゃなのです。「樋川」はさらにいえば「ふぃーじゃー」の方がより首里方言に近いはずですが、ここも中途半端に妥協して「ひーじゃー」とするから山羊「ひーじゃー」と同音になってしまっています。ちなみに「比嘉」は今「ひが」と読ませていますが、元々「ふぃじゃ」です・・・。
読み方、当て字に統一性がない
100%沖縄読み、80%沖縄読み、50%沖縄読み、100%現代語読み、沖縄の各地方読み+首里貴族読み、加えて当て字が統一していないものだから、当の沖縄の人ですら読めないこともあります。
一昔前に万葉集で遊んでいたことを今も現在進行形でやっているのが沖縄なのです。
今回のバス停名称クイズは下記の漢字を現代仮名遣いにできますかという問題と変わりません。
茜草指 武良前野逝 標野行 野守者不見哉 君之袖布流
読み:茜(あかね)さす、紫野(むらさきの)行き、標野(しめの)行き、野守(のもり)は見ずや、君が袖(そで)振る
「むらさき」を「紫」ではなく「武良前」と書くあたりが、「がー(古語:かは)」を泉と書いたり、水としたり井泉とするのと同じですね。
さらに「すんがーひーじゃーまえ」を突っ込むなら、「前」を「まえ」と読ますあたりが「???」です。そこまで沖縄風にしたいのなら「めぇ」とかにすべきだと思うのですが、そこは妥協するという・・・。
突っ込み所をまとめると
・寒水川は寒川と行政的に名称変更しているのに、バス停の名称変更を怠っている。
・漢字の当て字と読み方を統一できておらず、本土の観光客始め、地元民さえ困惑させている。
・落ち着いてみれば「さむかわひかわ」の古語読みで大して特別な読み方ではない。
・とりあえずバス会社は問題出す前に、行政の名称変更と共にバス停の漢字も修正すべき(変更済みだったら本当にごめんなさいm(_ _)m)
というとことです。
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もっと興味をもってほしい日本本土と沖縄の歴史
最後に、沖縄の人も本州の人も、沖縄の文化が本土とかけ離れて特別だと勘違いしていますが、実は沖縄や東北など中央から離れた場所には古いやまとことばや風習が色あせることなく保存されていて、これこそ「THEにっぽん」という文化なのです。
今回の地名であっても、各地方ではもちろん標準語と違う読み方をするので、その地方の言葉で書けば沖縄と同じように他所から来た人は読めないということは当然のごとくおこります。土佐で生まれたジョン万次郎が琉球ではもちろん、薩摩、長崎でも言葉が通じず困ったというエピソードがあるように、各地方はもともと意味を解するのが難しいほどに違う方言、読み、訛りがあったのです。今でこそ標準語化されその違いを感じませんが、沖縄だけが特別ではないのです。
「とみしろ」「とみぐすく」の混在する状況は、行政的に見て大変恥ずべき状態で、学校名や役所名を統一できていないということは、これまでやるべき仕事をやっていないと言われても然るべき状態です。「東京」が「てふきう」、「たうきよう」、「どんじん」など駅名、警察署名、学校名それぞれ違うとどう感じますか?「東京って色んな文化がまじってて楽しいなー。」と感じるでしょうか。
ちゃんぷるー文化は本土も同じです。中国、インド、ヨーロッパの大陸文化、朝鮮半島からの文化、混ざりに混ざっています。遺伝子も、言語も、習慣もです。むしろ沖縄は純粋な日本文化といっていいぐらい、数千年前の古語や古代人のDNAがそのまま息づく宝の島なのです。
残念なのは薩摩藩が無理に異国風に仕立て、名前の字数や漢字の変更、琉装などに見る衣服の変更などを行ってしまったことです。しかし、今はこの無理に仕立て上げられたうわべだけの異国情緒こそが本来の沖縄という見方をするテレビや、それを観光のメインとしているため、史実や言語史が無視されてしまっています。それどころか、沖縄を日本本土とは全く違うものと見て、仲を引き裂くような傾向も見られて本当に残念です。
なんでもないバス停の名称クイズですが、そこからもっと真剣に沖縄のことを考えて頂ければ嬉しいです。
長文失礼致しました。